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名前のない馬 岩木誠一郎 [詩作品]

名前のない馬                 
                           岩木誠一郎


好きな動物は何か という質問に

馬 と答えたときから

すらりと四肢の伸びた生き物が

わたしのなかに棲みついている



電車に乗っているときも

街を歩いているときも

風にたてがみをなびかせながら

遠い物音に耳をすませている



夜が来て

だれかの絵のなかで見た風景が

濃い影をまとって現れると

天に向かっていななくこともある



星空のどこかに

帰る場所があるのだろうか

愁いをおびた眼の奥には

夕陽が燃え残っているのだが





カーテンを開けると

蹄のかたちをした雲がひとつ

ぽっかり浮かんでいることがある


””””””””””””””””””””””””””””””””””””””

昨日、根岸森林公園の隣の馬の博物館に立ち寄った。白い馬や栗毛の馬が4頭、馬場を
駆けていた。馬場の隣の厩舎に繋がれているのが一頭だけいて、鼻筋が白く、左の後足の先だけが白い。写真を撮りたくなって声をかけたら、大きな目で、じっと私を見てくれた。岩木さんの詩の通り、やっぱり愁いをおびて、澄んだ眼の色だった。花吹雪のなか、馬のその眼を思い浮かべながら帰ってきた。
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夜のバス 岩木誠一郎 [詩作品]

岩木誠一郎さんから新しい詩集が届いた。岩木さんの詩のなかに流れている時間の質が好きで、またそこへ戻っては、自分の日常を味わいなおすように何回も読み返してしまう。そしてそのたびにかけがえのない時間の一回性に気がつく。
           

    夜のバス      
                          岩木誠一郎

深夜の台所で水を飲みながら

通り過ぎてしまった土地の名ばかり

つぎつぎ思い出してしまうのは

喉の奥に流れこむ冷たさで

消えてゆく夢の微熱まで

もう一度帰ろうとしているからなのか

こわれやすいものたちを

胸のあたりにかかえて

卵のように眠る準備は

すでにはじまっているのだが

冷蔵庫を開けたとき

やわらかな光に包まれたことも

水道管をつたって

だれかの話し声が聞こえたことも

語られることのない記憶として

刻まれる場所に

ひっそりと一台のバスが停まり

乗るひとも降りるひともないまま

窓という窓を濡らしている
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夢は旅(羽生槇子) [日々のキルト]

今日は羽生槇子さんの詩集『人は微笑する』から一篇を載せたいと思います。
この詩集はわかりやすい表現の下に人々のもつ普遍的な郷愁のようなもの、宇宙的な想像力、他者へのやさししい思いが感じられ、この日頃の鬱屈したおもいを解放してくれました。

       夢は旅   
                           羽生槇子
  
夢は旅

どこかの集会に来たのでしょうか

それぞれ荷物をまとめ始めているから

集会は終わりでしょうか

荷物を片づけながら だれからともなく

自分の大切な人が亡くなる時の話を始めます

一人 また一人

わたしは 一人ずつの話を聞くたび泣いてしまいます

悲しいこと

  

そこで目がさめます

さめてから

夢の中で話していたいた人の中にわたしの知人が二人いて

しかも二人共 現実に大切な人を亡くした人で

でも その人の姿も表情も覚えているのに

話の内容を何も覚えていないことに気がつきます

夢の中でだけ伝わる言葉 というのがあるでしょうか



金色の日々は早く過ぎ

わたしは ふと 時の流れの音が

滝の流れの音のように激しく聞こえた と思います


     ”””””””””””””””””””””””””””””

なおこの詩集のなかにはさまれた絵が二枚あって、すてきでした。              
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冷凍魚 水野るり子 [詩作品]

    冷凍魚


魚は一匹ずつで悲しんでいる


早春の塩の浜辺にひきあげられ

塔のように倒される海の魚


しなやかなその喉のところまで

行き場のない海があふれてきて

やがてそのまま凍りついていく長い時間


かつて魚を許してくれた

あの水の限りないやさしさが

いまは不思議な残酷さとなって

魚の全身を

容赦なくしめつけてくる


そうして

魚はあえぎながら

少しずつ

内側から啞になっていく


 
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象その他   水野るり子 [詩作品]

ずいぶん長い間お休みしていました。その間いろいろなことが起こり、落ち着きなく過ごしてきました。いま自分のために、以前書いた私の内の原イメージみたいな作品をいくつか写してみたくなりました。それは今というこの時代の曲がり角を感じ、でも何もできない自分の気持ちを反すうするために…かもしれません。


           


一日中

雪は降りやまず

時計は故障していた


世界は沈黙し

人類がたどりつく以前の

ひとつの星のままだった


見えない空の底では

かすかに鐘の音が鳴り響いていて

    
      ※

その夜

雪明かりの窓からわたしは見た

巨人がひとり

暗い坂道を下りていくのを


風が中空に

その髪を吹きあげ

肩にのせた深い壺のなかへ

なおも雪は降りつづけていた

                  詩集『クジラの耳かき』より



         象


その象は三本足である

たるんだしわの重みを引き上げ

ゴミ捨て場の夕闇のなかにかくれている

腐敗することのない不消化物の山が

焦げ臭いにおいを立て

重い廃油となって空を侵している

ブルドーザーもひびかず

火も種子ももえないこの場所にむかって

どこからか象は裏切られてきたのだ


あまりに場違いなこの成り行きは

象を途方に暮れさせる

夜のゴミ捨て場をきしらせて餌をあさり

ドラム缶の足音を

町の眠りの裏側にとどろかせる

うっかり追い抜いて来てしまった

自分のもう一本の足に毒づいてもみる

草食性の身の上をかくし 人目をさけて

町の上空を飛ぶ 排泄物に汚れた鳥を

鼻高々としめ上げてもみる

だが奇形の象のかなしさは

日ごとに錆びついていく町の空に

錨のように重くひっかかったきりだ


スクラップ広場に漂着する

町という町の悪夢は

ついに回収されることができない

その黄色いガスの底をさまよう

一匹の象の姿を見たものはいないか

もう人間の領分ではない

荒涼としたあの象の場所を見たものはいないか

                         詩集『動物図鑑』より


            
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