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弓田弓子詩集「灰色の犬」から [詩作品]

横浜詩人会創立50周年を記念するネプチューンシリーズが発行中だが、最近送られてきた弓田弓子さんの『灰色の犬』は傑作な詩集だった。寸鉄人を刺す…ではないが、寸鉄日常を穿つ!といいたい詩が多く、とてもおもしろい詩集だった。詩人の眼で日々を生きるということは、こういうことかもしれない。私はなんとおろそかに日々を送っていることか。


               ボール投げ

             「吉田橋」を経て
             「関内」から
             「馬車道」へ
             せかせか
             辿っていると
             背中にばーんと
             ボールがあたり
             急くな、と
             呼び止められた
             思わず振り返ったが
             知り合いは 
             見当たらない
             ビルディングの
             凹凸の後ろに
             赤赤と陽が
             落ちて行くところだった
             わたしは
             眼の中を赤く染めて
             見えないボールを拾い
             緩やかに
             投げ返した


            
           日が沈みかけている 

          炊飯器の炊飯を指先で押しそれだけの力で
          目がくらんだ 日が沈みかけているので地
          が傾いたのかもしれない あっけない  指
          先で 米が 炊けてしまうのだから あっけ
          ない


          いつからこんなに簡単になったのか くら
          む頭の中で炊飯器の型が変化していく

 
          どうしたのか まるで別世界にいるようだ
          性別 生年月日を声に出して暗唱してみる


          改良されていく炊飯器をじゅんじゅんに手
          に入れて米を手に入れて炊いてきたが こ
          れだけのことだったのか 米をこんなふう
          に簡単に炊いて一生が終わってしまうもの
          なのか


          つまらなくなってきた 改良されていく生
          涯なんて あっさり炊飯器を買ってしまい
          買えてしまう 便利な炊飯器を買うために
          何をしてきたのだろう ただただ手に入れ
          てきたのだ


          炊飯器の研究をする人 デザインする人
          製造する人がいて運ぶ人がいて店に並べる
          人がいて 売る人がいて 買う人がここに
          いて 米が炊きあがるのを待つ人がここに
          いて


          なにもかも厭になってきて 炊飯器に吸い
          こまれているのに 身をまかせているのが
          厭になってきて このまま生が尽きていく
          のが見えているのに逃げることもしないで
          いるのが


          厭になってきたが 米が炊きあがるいいに
          おいがしてくる 


      
        ””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””

最初の詩の、さりげない、まぶしい切り口。それから二番目の詩の批評の痛さ。(おおげさではなく、身に染みる。)
そのほかにもたくさんおもしろい詩が載っていて困ります。


        
    

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